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| ファイゲンバウム教授の新著書のインパクト |
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| 今井 賢一 スタンフォード大学名誉シニアフェロー・一橋大学名誉教授 |
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| このHPにもファイゲンバウム教授の新著『起業特区で日本経済の復活を!』の日本語での出版を紹介し、英語版を収録した。 この書物は、出版社である日経新聞からの要請もあって、現在日本で議論を巻き起こしている「特区」という表題が入ったため、何か時流に乗ろうとした啓蒙書のような印象を最初はもたれたようだが、内容を読むと「なぜ日本では起業がうまく行かないのか」についての原因が「そういうことか」と膝をたたくようにわかったという評判が定着してきた。「まえがき」を書いた私もほっとしているところである。 以下の一文は、ファイゲンバウムの書物に刺激されて、京都の産業ビジョンを現時点であらためて考察してみたものである。既に私が所長をつとめている京都府中小企業総合センターのニュースにのったものであるが、一般の読者には目に触れる機会が乏しいと考えられるので、このコラムに収録してもらうこととした。 ・京都の産業ビジョン 京都の産業ビジョンを明確にわかりやすく語ってみたい。現在の日本のようにさまざまな意見が錯綜し、人々の「表層」的な意見と「深層」的な心理が分裂しているときには、人々に分りやすい目標を設定することがきわめて重要である。 例えば、サッカーのワールドリーグに出場し、メダルをとるというような具体的で実現可能性をもつ目標の設定である。かつても「産業ビジョン」というと、世界一の鉄鋼業をもつとか、世界有数のコンピュータ産業を育成するというような具体的でわかりやすい目標が語られた。しかし、それはどちらかといえば国や産業界の目標であり、人々の「くらし」や「いのち」にかかわる直接の目標ではなかった。これからの産業ビジョンは、国を富ませたり雇用の基盤をつくるという手段としても大事ではあるが、われわれの「くらし」を具体的にどのように改善し、「いのち」の質をどう高めるのかという点にまで及んだ説得力をもたねばならない。 いま世界では、人間能力を向上させるための新型のイノベーション競争が始まっている。この競争に参入して勝つという目標設定は、われわれを奮起させるだけではなく、いま述べた意味でわれわれの「くらし」と「いのち」に直接にかかわる目標となりうるものである。 その世界で始まった新型イノベーションの競争とは、ナノテク(N), バイオ (B), 情報技術 (I) を融合させ、それらを重ね合わせて、人類の生活の質を改善し、人間能力を向上させようというものである(NBI Converging Technology)。つまり、この新型イノベーションの哲学は、NBIのそれぞれの多様な技術を組み合わせて、人間の感覚、判断、知的能力等々のピューマン・パフォーマンスを向上させるという本質的な目的のためにNBIの成果を収束させることなのである。 具体例のごく一部を挙げてみよう。たとえばナノテク(N)は、センサーの能力を飛躍的に多様化することによって、われわれの感覚を向上させ、バイオ(B)は医薬・食品の改善等を通じて「いのち」と「くらし」の質を高め、情報技術 (I) は、それらの技術・方法をどのように学ぶかという万人の学習能力自体を高めるのである。 この新型イノベーションの競争は既にアメリカを基点に現実に始まっている。現にシリコンバレーでは、NBI技術革新を「次世代シリコンバレー」の目標として掲げるとともに、それを真に実現するには、他の地域、例えばオースティン、ボストン、ワシントン、あるいはオックスフオードなどとの熾烈な競争があることを強調している。 日本はこの競争に参入しなければならない。最初に述べたサッカーの比喩でいえば、なんとしても日本はこのワールドカップに参加し、決勝リーグぐらいには残らなければならない。それが出来なければ、日本は二流、三流国になる。同時に、われわれは「いのち」を救う高度な医療とか、成熟国にふさわしいクオリティ・オブ・ライフを得られなくなるのである。 NBIの個々の技術、研究開発能力をみれば、日本は十分に決勝リーグに残るぐらいの実力はあるはずである。事実、毎年ダボスで行われる世界経済フォーラムで引用されるIMDの国際競争力指標では、昨年の日本は総合指数ではなんと26位に後退したが、技術開発に関する指標では依然第2位であり、銀メダルの資格を持っている。 これは、なにも大企業や大学・研究所の技術だけではない。中小企業が貢献している例も少なくない。現に、かつて私が社長をしていた(現在は最高顧問)株式会社シクスオンは、次世代半導体のシリコンカーバイト(分散電源、電気自動車、などに使われる熱に強い半導体)の生産を軌道に乗せつつあるが、その「研磨」は京都の中小企業である「アクト」が担当している。アクトの岡本さんは決してその道の専門家ではなかったが、この仕事の重要性に気づいてはまりこみ、いまでは京都大学の原子力間顕微鏡を借用し、原子・分子レベルまで観察する研磨の仕事をしている。まさに、中小企業によるナノ(N)への挑戦である。 それにもかかわらず、日本でNBIを融合し、それを人間能力の向上に資するというような議論が高まらないのは、それを実現する具体的な「場所」(地域ないし都市)が存在しないからであろう。 そうであれば、最近構想されている「特区」という政策手段をそのためにこそ利用すべきであろう。日本の特区は規制緩和の手段として構想されているが、それだけでは弱い。広義の "Enabling Policy" として、つまりあらゆる人々が能力を発揮し得る「場」、ないし環境条件を用意する政策として構想さるべきである。ファイゲンバウム教授は最近『起業特区で日本の再生を』という書物を緊急出版しているが、その用語を借りれば、NBIによる新型イノベーションを実現するための「起業特区」こそが今まさに必要なのである。 私は、京都という場所は、その「起業特区」の最優良候補でありうると思う。最近、京都府で構想されている「ベンチャー・ファンド」は、ぜひ以上に述べたような観点を取り入れて実現してもらいたいものである。 ![]() |
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