スタンフォード日本センター
コラム English
 
万愚節
今川拓郎
スタンフォード日本センターフェロー
総務省情報通信政策局総合政策課 課長補佐


 何を隠そう、私は四月馬鹿だ。4月1日の夜10時生まれ。あと2時間遅かったら、学年が一つ下だった。そう、新しい学年は何故か4月2日生まれから始まる。
その秘密は「年齢のとなえ方に関する法律(昭和24年法律第96号)」にある。「年齢のとなえ方」とは、何とキュートな法律名だろう。この法律は、年齢を「数え年」で言い表していた習わしを改め、「年齢計算ニ関スル法律(明治35年法律第50号)」の規定により算定した「満年齢」を使うことを決めた法律である。「満年齢」とは、誕生した日を起算日とし、毎年の誕生日の前日に加齢される年齢。つまり、4月1日生まれの私は3月31日に歳をとるのだ。

 一方「学校教育法(昭和22年法律第26号)」では、「子女の満6才に達した日の翌日以降における最初の学年の初めから」小学校の就学義務があるとしている。そこで、3月31日に満6才になった私は、翌日の4月1日からめでたく小学校に入学。という訳で、学年は、4月2日生まれから4月1日生まれまでの区切りとなるのだ。

こんな出生の巡り合わせで、私の人生はずいぶんと刺激的になった。小学校の頃は朝礼でいつも先頭。「マエヘナラエ!」では独り腰に手をあて、両手を前へ突き出してみたい衝動にかられた。春休みには「誕生日を祝おう!」と呼び出されて、行ってみたら誰もいないという手厳しいエイプリル・フールも。
損な話ばかりでもない。学年の中では常に最年少。大学に入ると年上の後輩もできた。年度始めは入学式やら入社式でいつもお祝いムード。世の中全体が新しい一歩を踏み出す。所詮生まれたこと自体が冗談なのだからと、「人生洒落やで!」と笑い飛ばす余裕も覚えた。

 俳句の世界では4月1日は「万愚節」。興趣に富んだ季語である。もともとは西洋のAll Fool's Dayの訳語で、11月1日のAll Saint's Day(万聖節)に対比しての称という。聖人の日があるなら、愚人の日もという訳だ。「人に騙される愚を戒める日」という解釈もあるが、「軽いウソをついて他人を騙してもよい日」と解釈した方が楽しい。

「万愚節 夫(つま)と並びて 他人丼」
母が詠んだ愚句である。日常の喧騒の中にも遊び心を思い出させてくれる誕生日を授かったことに、感謝していきたい。